右か、左か、それが問題だ。

撮影の仕事をしていると、「右か左か」を決めないといけない場面にちょこちょこと遭遇します。
「どっちに向かって走るべきか」とか、「向かって右に置くか、左に置くか」など。

そんなもの、好きに決めればいいじゃないかと思うでしょう。
違うんです。

映像の世界における「右、左」って結構重要な意味を持ってるんです、というお話。

舞台における、上手・下手

学生時代、どっぷりと演劇の世界にいました。
ここでよく使われたのが、「上手(かみて)」「下手(しもて)」という言葉。

舞台の左右のどちら側かを指し示しています。
観客席から見て、舞台の右が上手(かみて)、左が下手(しもて)です。

舞台上の出演者と、観客席にいる演出家で、左右が逆。
スタッフも、自分の仕事によって陣取る場所(向き)が違う。
だから、みんなが共通認識を持つために、言葉が明確に定義されるのは大きな意味があります。

ところが、ですね。
海外の演劇では、左右の表現がどうも逆のようなんです。

ステージ上(あえて舞台上、から表現を変えました)の出演者目線を基準に名称が決まってるそう。
英語では、客席から見て舞台右をstage left(舞台左)、客席から見て舞台左を、stage right(舞台右)と呼ぶらしい。

こういう話をしているとだんだん、「左右どっちだっけ?」と混乱が始まるんです。

いろんな分野の「右から・左から」を考えてみた

舞台から離れ、その他の表現では上手・下手はどうなっているのか、調べてみました。

◎オーケストラの指揮者は、観客から見て舞台左手(下手)から登場します。

◎イベントの司会者も、下手にいる印象があります。

◎『笑点』(日本テレビ系)の出演者は、上手から登場します。

◎年表は右から左へと進んでいきます。鳥獣戯画など、古来の書物もそうですね。
一方で、英国の絵巻物は左から右に流れていくそうです。

◎縦書きの書籍は、右から左に進み、右にページをめくります。
新聞が最たるものですね。
映画のシナリオも縦書きだからか、右から左です。

一方で、横書きの書籍は、左から右に進み、左にページをめくります。
洋書は、左から右に書かれ、左にページをめくる。

◎グラフの時間軸(横軸)は、左から右へと未来に向かいます。

◎任天堂のスーパーマリオは左から右に向かってゲームが進みます。

◎動画編集ソフトは、左から右に時間軸が進みます。

ざっと挙げてみましたが、それぞれなんとなくルールがある気がします。
同時に、例外もいっぱいあることでしょう。

司会者とひな壇芸人の左右も、番組によって違いますが、これらも意図があるのでしょうか。
スポーツによって左右に意味があるかも気になります。

アラビア語圏はまた違ったり、車のハンドルも日本と海外で反対だったりしますから、洋の東西の違いもありそうですね。

映像における、上手・下手の意味合い

映像については、基本的に、舞台と同じ考え方をするようです。
「舞台における観客の視点=カメラ」として、上手・下手を使い分ける。

上手には優位の印象効果が、下手には劣位の印象効果があるとされています。
主人公が映像の中で、画面左から右に向かって走り出すと、前向きな印象を与える、というわけですね。

となると、インタビュー撮影の座り位置も決まりがあるのでしょうか。

実はあまり意識したことがなかったのですが、自分が撮ってきたものを見返してみると、「ゲストを上手」に配置しているものが多い印象でした。
無意識にそうしていたのかもしれません。

昔作った僕の作品は、こんなカットで始まります。

主人公が道を「右から左に」歩いている。
作品はホラーで、主人公はこの後、怖い目に遭います。

あれこれ調べてみると、「古い日本映画は今と違う」といった記述もありました。
どちらが正しいというものでもない、と思うと同時に、一つの動画の中で左右の意味合いは統一しておきたい、とも考えます。

まとめ

こういうことを知識として知っておくのは悪いことではないと思います。

一方で、これらを当たり前として人と接するのはリスクがある。
人によって解釈が違う可能性があるからです。

だから動画ディレクターとしては、明確に誰が聞いても間違えないような言い回しを心がけたい。

そういえば以前、食事のシーンの撮影が始まったら、役者さんが「左利き」だとわかった、ということがありました。
すっかり「右で箸を持つ」と思い込んで構図を準備していたんですね。

右か、左か。
奥が深い世界です。

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