先日、「カメラの業務機と民生機の違いは?」という質問をもらいました。
自分の回答が心許なかったので、ネット検索とchatGPTで調査してみた結果がこちら。
<ネット検索>
・業務機:耐久性と画質、そして音質が優れている
・業務機:記録フォーマットの種類が多い
・業務機:修理費が高い
<chatGPT>
・業務機:プロフェッショナルな用途に特化
・民生機:一般消費者が日常的な写真やビデオ撮影に使用するための製品
まあそうだろうなと思いつつ、これでは「なぜ業務機でないといけないのか」「なぜ民生機ではダメなのか」には答えられていません。
従来、「プロに頼む=プロが機材を選ぶ」で話が終わっていました。
しかし、動画制作というものがどんどん身近になるに従って、これに似たような問いに直面することも増えてきたのです。
『悪魔の証明』みたいな問いについて考えてみました。
「なぜそれがいいのか」は説明が簡単
カメラの選び方をネットで調べると、
「Aがオススメ」
「Bもオススメ」
「用途に合わせて使い分けよう」
みたいな情報に大量にぶつかります。
僕はこれらを<ぶん投げ情報>と呼んで否定的に見ています。
一切答えになっておらず、「選択肢ばかり増やす」感じ。
もちろん、専門家はこれで困らないんです。
自分で決断できるから。
困るのは初心者です。
初心者は「例外」を嫌います。
適切な答えをたった一つだけ欲しがります。
「オススメ情報=それがいい理由」って書くのは簡単。
詳しい人なら誰でもできる。
でも、「なぜそれがダメなのか」は難しい。
「食えばわかる」は本当か?
「食えばわかる」という言葉があります。
その良さは、実際に触れてみれば理解できるはずだ、という言葉。
僕はTikTokを始めたことをきっかけに、ここ2年ほど映画フィギュアの世界にどっぷりハマってます。
安いフィギュアと高い(高すぎる)フィギュアがあるんですね。
最初は、せっせと安いもの(2、3千円)を買ってきたのですが、一度高いもの(数万円クラス)を買ってからはもう、視点が高くなってしまい困ってます。
例えば目の造り。
高いフィギュアは、目玉が埋め込まれてます。
安いフィギュアは、目は単に塗られてるだけ。
光を当てると、リアルさがまったく違う。
これは確かに、「食えば(買えば)わかった」例。
ただ、2年間もフィギュアに接してきたからわかったこと、とも言えます。
触れ始めた頃は、そんなこと気にも留めなかったからです。
「食ってもわからない」人の存在
DVX100というパナソニック製のカメラが登場したとき、その映像を見た僕は頭がクラクラするほど興奮しました。
それまでのカメラはどれも「運動会を撮るような生々しい映像」だったのに、このカメラでは「しっとりとした映画っぽい映像」が撮れる。
24Pという映画っぽく撮れるモード(詳細は省きます)が搭載された初の一般カメラだったのです。
ところが、僕はその後さらに驚くことになります。
自分の「初心者向け映画制作ワークショップ」で、このカメラの映像を見せたみんなの反応が「????」だったから。
なぜこの人はこんなに興奮してしゃべってるんだ?という目をしていた。
<食えばわかる>
これは、いつでも誰にでも使える言葉じゃない。
先ほどのフィギュアの比較写真も、人によっては「何が違うの?」と思われたかもしれません。
「食わない」人もいる
実は、もう一つ問題があります。
それは「食わない人」の存在です。
もし、両方食べる機会があれば、「食えばわかる」が期待できます。
つまり両方について、じっくり説明する・解説できるなら、比較して考えてもらえる。
ところが、そういうことを知りたい人の多くは、
「パッパと教えてよ」
と期待していることが多いのではないでしょうか。
そういう人は、長い解説なんて望んでないし、詳しい説明なんて求めてない。
正しさ・詳しさより、パッと見(聞き)の「映え」が重要。
物事を伝えるにも、タイパ(タイムパフォーマンス)が求められる。
「背中を見て覚えろ」しかない!?
職人の世界では弟子がいて、そこで登場するのが「背中を見て覚えろ」。
これは説明せずに済むとても便利な表現ですね。
僕はあるとき、質問されました。
「オリカワさんは『初心者にはAというソフトがいい』と言ってますが、ネットで調べたら『Bというソフトがオススメ』とあります。どちらが正しいのでしょうか?」
こういうのは、ただただ面倒・・もとい、困る。
僕は最近、一周回って「背中を見て覚えろ」しかないのだと感じ始めています。
つまり、「俺がやってることを見て判断しろ」というわけです。
AやBというソフトの機能をどれだけ解説しても、相手は納得しない。
納得できないどころか、理解もできない。
だったらもう、それぞれを使った僕の具体的な体験談を伝えるしかない。
・Bというソフトを以前、こういう目的で使ってみたことがある。
・そうしたらこういう結果になった。
・そして、自分は具体的にこう困った。
・一方、Aはこういうことができる。
・だから、特定の用途がなければ、初めての人にはAを薦めている。
僕はせっせと、メーカーロゴすら入ってない怪しいカメラまで買ってチェックしてます。
知らなかった初心者ソフトもどんどん試してみる。
これは「背中を見て覚えろ=個人的な体験談を共有する」ためです。
まとめ:伝え方の危機かもしれない
プロになる程、高いものを使用するから、違いがわかる。
一方で初心者は、安いものに興味を持ち、それらがなぜダメなのか知りたがる。
そして、みんな、じっくり聞こうとしない。
ただ、答えだけ知りたい。
僕はここに、「伝え方の難しさ」を感じているのです。
今は、「どうしようもなくダメなもの」ってあまりなくなってると思うんです。
いろんなジャンル、場面で選択肢を並べられたとき、どちらもそれなりにOKであることも多い。
だったら、それらの違いをどう説明すればいいのか。
我々映像ディレクターは、より高度な説明能力が求められます。
そしてそれは、単に機能や仕組みを並べただけではもう厳しいのではないか。
映像制作の民主化は喜ばしいこと。
でも同時に、新しい課題も生まれてると、常々感じています。