木製三脚はなぜ使われなくなったのか

道を歩いてると、息子が突然「なんか撮影してる」と。

目を向けると、測量をしてたので笑いました。
立ち振る舞いは確かに似てる。

歩き始めてから、ふと考えました。

今の測量機器、黄色く塗られてたけど、三脚が木製じゃなかったか。
木製の三脚なんて、今、撮影ではなかなかお目にかからない。
でも、測量では現役!?

スマホで検索すれば、すぐに何かしらの答えにたどり着けたでしょう。
でも、なんか気に入らない。

三脚は、僕にとって左手みたいな存在です。
そんな大事な存在について、ネットで気軽に調べて終わり、というのはとにかく気に入らない。

自分なりに仮説を立てて、ひとつひとつ潰していくことにしました。

 目次
  • 仮説を立ててみた
  • 映画の歴史をひも解いてみた
  • ネットで調べてみた
  • とても納得しました
  • 買っちゃった
  • 仮説を立ててみた

    【仮説1】昔は木製しか選択肢がなかった

    三脚に適した素材は、時代を経て進化していった、と考えました。

    現在、僕の仕事現場で使われる三脚は、次の2種類が多いでしょう。
    ・アルミ製
    ・カーボン製

    軽く、丈夫。持ち運びに適しています。
    これらは、映画が作られ始めた頃は技術的に三脚にできなかったのではないかと考えました。

    しかし、これは「なぜ測量は今でも木製が使われるか」の説明になりません。

    【仮説2】カメラの大きさによって適切な三脚が変わる

    古い映画では、大きなカメラと木製三脚がセットになっている印象です。

    実は、大きなカメラは木製じゃないと支えきれないんじゃないか?
    今は、カメラは小型・高性能になっていき、そこまで重さが求められなくなってきた?

    しかし、測量の機器は持ったことはありませんが、昔の大型カメラほど重たいとも思えません。
    やはり、つじつまが合わない。

    【仮説3】フィルムと三脚に因果関係がある

    古い映画=木製三脚、のイメージが正しいならば、フィルムと関係があるのではないか。
    フィルムには木製三脚が合っているとするなら、音や振動がフィルムに悪影響を与えるのかもしれない。

    三脚にビー玉が飛んできてぶつかったとしましょう。

    アルミ素材やカーボン素材なら、「カーン・・」と音や振動が響きそう。
    一方で木製なら、「コツン」と振動が抑えられそうな気がします。

    妙に納得感がある気がしますが、測量との関連性がイマイチ謎のままです。

    【仮説4】時代の流行がある

    単に監督の好みじゃないか、なんて考えました。
    「音楽はLPレコードじゃないとダメ」的な。

    現代(に近い)監督でも、木製三脚にこだわってる人がいるかもしれません。

    ひょっとしたら測量の現場でも、「俺、今日、木製だぜ」「まじ!?カッケー!」みたいな会話が繰り広げられてる可能性もあります。

    【仮説5】載せるカメラの使い方が変化した

    古い映画のカメラワークといえば、どっしり構えて撮るか、レールに載せて移動するか。
    一方で現代のカメラワークは、より自由自在。持って走ったり飛んだり跳ねたり。
    それにより、細かく微妙なアングル調整が求められていると思います。

    どっしり構えるだけなら、木製三脚が適していて、細かく動かすならアルミやカーボンなどが適しているのではないか。

    測量も、ある意味、どっしり構えている印象。
    これもありそうだな…。

    映画の歴史をひも解いてみた

    僕は映画のメイキング映像や写真が大好きで、ネット上で見つけると画像保存しています。
    この記事を書くにあたって、映画のメイキング写真を100枚ほど確認してみました。

    時代と木製三脚に因果関係はあるのか。
    因果関係があるなら、いつを境に変化していったのか。

    調査対象はこちらのInstagramの写真から。
    https://www.instagram.com/behindtheclapperboard/

    はっきり木製かどうかがわかる写真だけ採用しました。
    「結局検索しているじゃないか」というツッコミが脳をかすめましたが、無視します。

    目についたものをざっとまとめました。
    ※木製以外は材質がイマイチはっきりしないので、一律で「鉄製」と表記しています。

    ・1927年 木製三脚
    ・1931年 鉄製クレーン!
    おっといきなり。【仮説1:木製しか選択肢がなかった】は否定されました。

    ・1935年 木製三脚(監督:ジョン・フォード)
    ・1940年 鉄製クレーン(監督:チャールズ・チャップリン)
    ・1941年 鉄製クレーン(監督:オーソン・ウェルズ)

    おいおい、鉄製クレーン、多いな。
    カメラが重たいので、高い場所に上げるにはどうしても鉄製クレーンが必要なのでしょうか。

    ・1945年 木製三脚(監督:ビリー・ワイルダー)
    ・1946年 木製三脚(監督:アルフレッド・ヒッチコック)
    ・1954年 木製三脚(監督:デヴィッド・リーン)
    ・1955年 木製三脚(監督:黒澤明)
    ・1957年 木製クレーン!(監督:ビリー・ワイルダー)
    ・1960年 木製三脚(監督:ジャン=リュック・ゴダール)
    ・1962年 鉄製三脚+木箱(監督:デヴィッド・リーン)
    木箱!?

    ・1965年 木製三脚+鉄製クレーン(監督:デヴィッド・リーン)
    デヴィッド・リーンは毎回違う。いろいろ使う柔軟な監督なんでしょうか?

    ・1967年 鉄製三脚
    ・1968年 木製三脚
    ・1968年 鉄製三脚
    ・1971年 木製三脚
    ・1972年 鉄製三脚+木製三脚
    ・1974年 木製三脚
    ・1975年 鉄製三脚

    入り乱れてきた!!

    この後、『スター・ウォーズ(1977年)』、『シャイニング』(1980年)と鉄製が続きます。
    時代は鉄製三脚にとって変わったと言っていいと思います。
    ルーカスやスピルバーグなど、新しい世代が三脚を変えた?ようにも感じます。

    ・・・と思ってたら、『カラーパープル』(1985年)でスピルバーグが木製三脚を使ってたり、『ダンス・ウィズ・ウルブズ』(1990年)でケビン・コスナーがパナビジョンを木製三脚に載せている写真も見つかりました。

    ネットで調べてみた

    自分なりの調査がひと段落したので、検索してみました。
    いろんな記述を見つけました。

    「木製三脚は、その振動吸収性能が他の素材を使った三脚とは一線を画するものがあるんですよ。
    常に機材に手で触れて操作します。その度にシステムは大きく振動する宿命を背負っています。特に微妙な振動であればあるほど、振動吸収の早い架台(三脚)は、有効なんですね。望遠レンズでの撮影でも同様のことが言えるわけです、ハイ。」
    出典:https://toast-tech.com/blog/?p=240

    「現在の計測器では軽合金などの金属やプラスティックなどの高分子材料が主流になって、木が使われているのを目にすることはめったにないが、数十年前までは整形の容易さ、耐久性、機能性などの点で木に勝る材料はなかったものと考えられる。
    (中略)
    木製三脚は華奢に見えるが、意外に堅牢なことに驚かされる。そして極めて軽い。ポータブルな実験台とも言える三脚にとって、堅牢で軽いということは利便性の点で大いに好ましい要素である。
    (中略)
    今日でも風景画の制作の際などに使われるイーゼルの多くが木製なのも、軽くて持ち歩きやすいことに理由があるらしい。山岳写真家も重い荷物を嫌うから、軽い木製の三脚を好んで使用する。」
    出典:http://www.kobayasi-riken.or.jp/news/No49/49_3.htm

    「ジンバルやステディカムを使って、ブレが抑えられた手持ちならまだしも、60分以上のドキュメンタリーや劇映画を、全て手持ち画面で構成すれば、大画面の上映に耐えられません。
    手持ちでブレたアクションシーンも結構ですが、穏やかな落ち着いたシーンがあってこそアクションシーンが生きるわけで、お客様が納得しなければ、お金の取れる動画にはなりません。」
    出典:https://www.pronews.jp/column/201908231000132451.html

    「HUSKYが世界初のジュラルミン製三脚として登場したのは半世紀以上前の話ですが、その剛性を確保したうえで重量を軽減するためのカーボン製三脚という位置づけで・・・」
    出典:https://atelierjin.com/shop/user_data/sp06_tripod.php

    とても納得しました

    一番わかりやすい要因は、<振動>だったんですね。
    確かに望遠レンズで撮ると、ほんのわずかな振動でも画面が大きく揺れてしまう。

    昔の映画は大画面を生かした壮大な世界観の作品も多く、木製三脚を使わないといけない必然性があったんでしょう。

    今回の調査で何度も登場したデヴィッド・リーン監督は、『アラビアのロレンス』(1962年)や『ドクトル・ジバゴ』(1965年)など、大掛かりな絵作りが多い。
    あれこれ試して作品作りをしてきた、強い作家性のようなものを感じました。

    今、あまり木製三脚が使われないのは、カメラ側でかなり補正が効くようになったことと、単に「そこまで大画面で見られないから気にしない」だけじゃないか。

    そして、肝心の測量の世界。
    何メートルも先を覗く機器を載せるのに、振動を抑える木製三脚は、しごくまっとうな選択肢なんですね。

    ちなみにこのようにまとめている測量会社の記事もありました。

    <木製三脚>=湿度による膨張が少なく振動も吸収するため、精度の良い測量が可能。丈夫で長持ち。
    <アルミ製三脚>=安く、軽くて持ち運びに便利。木製に比べると精度が劣る。
    出典:https://nishiki-toukisokuryou.com/blog/detail/20211116210612/

    先ほどのネット記事の最後のものでは、「ジュラルミン製三脚として登場したのは半世紀以上前の話」とあります。つまり、木製以外の三脚の登場は、1960年前後あたりということです。
    僕のメイキング写真調査では、「1960年代から1970年代にかけて、三脚は変わっていった」と出ているので、時期的にもつじつまが合います。

    買っちゃった

    実は気になって、実際にドイツ製のベレルバッハを入手してみたのですよ。

    このメーカーは、映画のメイキング写真の中でも登場しました。
    まだ、細かい振動の影響を受ける撮影をしていませんが、そのうち。

    で、なんで買ったのかって?

    単なる好みの問題です。

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