「WordPress」世界で最も有名なCMSの歴史とコミュニティ
後編:携わる技術者によって育まれたコミュニティ

世界の約4割、日本に限れば6〜7割のWebサイトで導入されているというWordPress。前編ではその歴史や、多くのサイトで導入されている理由などについて迫りました。

引き続きサイト制作に携わるエンジニアの村上宗統氏と、Webディレクターの新田洋祐氏による対談から、WordPressの機能を拡張する「プラグイン」や、WordPress開発に携わる技術者とそのコミュニティについての話をピックアップしました。

<座談会参加者>
◎村上宗統氏(Webエンジニア/インフォメーションデザインジャパン代表)
◎新田洋祐氏(Webディレクター/タブコード取締役)

プラグインひとつでブログツールがECシステムに!

新田:WordPressはプラグインという拡張機能があるのも大きな特徴だと思います。続いてはこのプラグインについての話をできればと思うのですが、プラグインを入れるとどんなことができるかと聞かれたら村上さんはどう答えますか?

村上:難しいですね。何でもできますから。メールフォームを導入するのにもプラグインを使用しますし、プラグインをひとつ入れるだけでECシステムを構築することだってできます。

新田:村上さんはどんな基準で使用するプラグインを選定しているのですか?

村上:有名で、バージョンアップが頻繁に行われているプラグインですね。基本的には使わないで済むなら使わないほうがいいですし、バージョンアップが行われていないプラグインは使いません。

新田:WordPressをバージョンアップしたときにトラブルが発生するのって、たいていアップデートされていないプラグインが原因ですよね。アップデートされないプラグインがある理由っていうのは何なのでしょうか?

村上:アップデートされないプラグインは無料のものが多いです。無料なのに開発したエンジニアがWordPressのバージョンアップに合わせてアップデートしてくれているから、ずっと使うことができます。

新田:なるほど、そもそも無料だからアップデートされないことに文句は言えないですね。

ContactForm7(コンタクトフォーム)

村上:じゃあ有料のものを使えばいいのでは、という話なのですが、無料でもすごいプラグインはたくさんあります。最も有名な問い合わせフォームにContactForm7(コンタクトフォーム)というプラグインがあります。有効インストール数が500万を超えるほど広く使われていて、これも無料です。

新田:ContactForm7は有料版もないですし、WordPress公式のプラグインなのかと思っていました。個人のものなんですね!

村上:三好隆之さんという日本人が開発者です。

新田:無料のプラグインなので、収入は当然1円もない。

村上:そうですね。三好さんは、開発者やWordPressコミュニティの将来を考えてContactForm7は無料プラグインとして永久に公開してくとお話されています。

もちろん寄付など支援することは可能です。
ContactForm7のサイトから支援が可能ですので、是非ご覧になってみてください。

技術者たちの根底にある「WordPressへの感謝」

新田:プラグインを開発している人たちって、いったいどういう目的で開発しているのでしょうか。もともとは自分で使いたかったから……?

村上:やっぱり最初はそうだと思います。ですが、WordPressに携わっている技術者たちは「お金を払わずにWordPressというすごいものを使えるのだから、WordPressのコミュニティに貢献したい」と考えている人が多いですね。そのボランティア精神で、WordPressのバージョンアップがあるたびにプラグインも作り直すわけですよ。そのパワーといったらもう……。人間ができている方たちだとしか言えないですよね。

新田:逆に、営利目的でプラグインを開発している人はいないのでしょうか?

村上:それはもちろんいます。プラグインで一発当てたいと考える技術者は少なくないと思いますし、僕だってそう考えないわけではありません。でもプラグインを作っていく過程で、プラグイン開発者たちのフォーラムで話を聞いたりしていると、みんながWordPressというコミュニティに貢献したいと考えで積極的に協力してくれる。そこで自分が利益をあげようという意欲が薄れるんです。結局みんなで助け合って新しいプラグインを作るということになるので。

新田:技術者たちの根底にはWordPressへの感謝があって、WordPressをみんなでさらによいものにしていこうという共通意識があるのですね。

村上:例えば今日僕が着ているTシャツは「WordCamp」というWordPressのイベントのものです。

WordCampは世界中の地域で行われていてすべてボランティアで運営されています。参加者は、技術者だけではなくデザイナーもコーダーもディレクターやWordPressユーザーなども。経験のレベルに関わらず集まります。
僕は年1回の東京開催のWordCampに「恩返し参加」しています。

新田:私も一般客として参加したことがあります。デザイナーやディレクターに向けたセッションが行われたりしていました。

村上:僕が参加している東京開催では、1日目はコントリビューターデーといってWordPressのオープンソース活動に貢献するプログラムになっていて、みんなでプラグインを作ったり翻訳したりします。
2日目はセッションデーといって同時進行で複数のレクチャー、プレゼン、ライブデモなどを行います。

WordPressはみんなで力を合わせて作ったものです。それを使って仕事をさせてもらっているわけですから、本当にみんな恩返しの気持ちで参加して作り上げているイベントなんです。

新田:技術者同士でWordPressコミュニティを育てている感じがすごいですし、面白いですね。技術者たちには若い世代の人もいますか?

村上:どちらかというと年齢高めの人が多いですが、若い人もいます。
プラグイン作成や翻訳で貢献している海外在住の中学生がいるのですが、日本でのWordCampでお会いしたことがあります。

バージョンアップをしないことによるリスク

新田:それでは最後にWordPressのバージョンアップについても詳しく話を聞かせてください。WordPressのバージョンアップをしないとどうなるのか、どのくらいの期間バージョンアップをしていないと問題になるのか、という話は多くの人が気になる点だと思うのですが。

村上:本来バージョンアップ自体は毎月やるべきです。でも実際には保守費や技術費との兼ね合いもあるのでケースバイケースだと思います。最新はバージョン5ですが、もしバージョン3などを使っていたら相当まずいです。10年くらい前のバージョンになるので、サーバーのPHPのバージョンなども本当に古くなってしまうので……。

新田:どの制作会社とも保守契約をしていないからバージョンアップも行えず、古いまま使っているという会社がすごく多いです。もし古いまま使っているとどんなリスクが生じますか?

村上:セキュリティの穴ができてしまい、そこを突かれて悪さをされてしまうということが多いです。例えば、自社のウェブサーバーを踏み台にされてSPAMメールの配信や、その文面に掲載したリンク先から個人情報を抜いたりされるパターンですね。「〇〇社のサーバーからSPAMメールが配信された」と公になれば、セキュリティ管理を怠っていた会社として社会的信用を失いかねません。

新田:パソコンのウイルスと一緒で、多くの人が使っているからこそセキュリティの穴が見つかりやすい。ところで、WordPress自体がバージョンアップしていくのも、WordPressのコミュニティに入っている人が携わっているのでしょうか?

村上:はい。みんなで意見を出し合い、それを取り入れながらバージョンアップされていきます。そもそもWordPressは開発者二人がWordPressを独り占めせず、「いいのができたから使って。そしてみんなで良くしていこう」という考えでオープンソースにしていますから。

新田 その考えが技術者たちに浸透しているのですね。


◇取材・文/野島慎一郎
ライター兼Webディレクター。ライティングは真面目な記事からくだけた記事まで、どんなジャンルでも読みやすさを第一に心がけて書いています。 最近はアレンジレシピ関連の仕事もひっそりとこなしているらしい。

▼前編はこちら

WordPressは無料で配布されているオープンソースのプログラムですが、多くのサイトに導入されているのは「無料で使いやすいから」という理由だけではないのかもしれません。

WordPressの価値の根底にあるのは開発者の「WordPressをみんなで良くしていこう」という考えで、それに共感した技術者たちによってコミュニティが形成され、WordPressを無料で使えることに感謝しながら技術者同士で助け合うことで進化し続けているのだと感じました。

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