6月登録義務化&12月免許制度スタート。
ドローンビジネスの現在地と将来《前編》

日常生活では見ることのできない目線の映像を届けてくれる無人航空機のドローン。近年はドローン映像を目にする機会も増え、私たちの生活ですっかり身近な存在になりつつある。

今年6月にはドローンの大半の機体において国土交通省への登録が義務化され、さらに12月には免許制度が導入されるなど、法整備が進んでいるのをご存じだろうか。

大きな転換期を迎えようとしているドローン業界。その現状と今後の展望について、埼玉日産自動車株式会社など8つのグループ会社を統括している「株式会社サイニチホールディングス」が運営する「サイニチドローンスクール」(さいたま市)の担当者に話を伺った。

限られた人の趣味から生活現場へ
存在感を増す「ドローンの今」を徹底解剖

サイニチホールディングス ドローン事業室・JUAVAC認定教官 麦倉篤氏

サイニチホールディングスのドローン事業室・JUAVAC(ジュアバック)認定教官の麦倉篤氏によると、ドローン業界に変化がみられるようになったのは5年ほど前のこと。
それまではプロによる映像撮影や、一部の人の趣味というイメージが強かったドローンが、土木・建設業界においてビジネスの用途で活用され始め、人力や大型機械に頼るにはハードルの高い高所や狭小な現場でドローンの可能性に注目が集まり始めたのだそうだ。

無人化、作業効率化、小型化……
急速な普及を遂げるドローンの背景

では、実際の現場ではどのようにドローンが活用されているのだろうか。

「急こう配の屋根や、橋梁の点検などが最も分かりやすい例でしょう。また、赤外線カメラを搭載した機体であれば、肉眼では確認しにくいひび割れ箇所やソーラーパネルの不具合を検知することも可能です。さらに専用ソフトを組み合わせれば、空撮画像から3Dデータも作成できます。これは測量に活用できるほか、現在の土地と工事・開発後の想像図をビフォー・アフターの形で簡単に提示することも可能。国土交通省からは建設・建築現場を中心に3次元モデルを利用した効率的な維持管理が求められていますし、最近では大規模災害時に利用され、迅速な復興計画に役立っています」(麦倉氏)

ドローン空撮画像をもとに3D化したデータ

麦倉氏が教官を務めるサイニチドローンスクールでも、従事する壁面や屋根などの点検や測量などにドローンを活かしたいという40~65歳ぐらいの受講生が多いそうだ。企業・現場運営を担う立場として、「ドローンをいかに実務で活用させていくか」を模索しているのだろう。

さらに、サイニチホールディングスの経営企画部の大和田一麿氏は、災害場面での活用にも言及する。

「近年は大規模災害の直後にも、ドローンを使用すれば安全を確保しながら空撮で被害状況を把握するということにも活用されております。実は、これは当社がドローン業界に参入した要因のひとつでもあるのです。当社はさいたま市(※1)・上尾市(※2)とそれぞれ災害協定を締結し、災害時にはドローンの活用とともに、避難所などに当社の電気自動車(EV)をご提供し、EVから非常用電源を電力供給源として活用いただけます。有事の際に地域貢献をモビリティだけではなく、ドローンという新たな価値をつけた方法で実現したいと考えています」(大和田氏)

※1 大規模災害時における無人航空機及び電気自動車による協力に関する協定

※2 災害時における無人航空機及び電気自動車による協力に関する協定

上尾市とサイニチホールディングス・埼玉日産自動車は災害時における無人航空機及び電気自動車による協力に関する協定を締結

ドローンが急速に普及していく一方で、麦倉氏はドローンが直面する新たな課題についても説明してくれた。

「ドローンは小型化・高性能化するとともに価格も安価になり、以前より誰でも手に取りやすくなりましたが、その一方で悪用されて事件化するケースや事故案件も増えています。例えば、重さ85グラムほどの機体にカメラまで搭載された機種は、1~2万円台。ラジコン程度のサイズでも高性能カメラを搭載し、本格的な撮影ニーズにも十分応えられる機体もあります。ここまで手軽な存在となってくると、法整備が急務になるわけです」(麦倉氏)

こちらの機体は重量わずか85グラムほど。片手に乗るサイズだがカメラも搭載

転換期を迎える2022年
登録義務化と免許制度とは?

2022年はドローン業界において大きなターニングポイントとなる年でもある。キーワードは「登録義務化」と「免許制度」だ。

2022年6月20日からは、重量100グラム以上の無人航空機は国交省への機体登録が義務化される。屋外飛行を目的とした機体の多くが100グラム以上なので、大半の機体は登録が必要になると言える。

「ユーザーの多い小型ドローンまで含めて所有者を特定できる仕組みを法的に整え、責任の所在を明確にしていこうという動きです。近年は、操縦可能範囲を逸脱して電波が切れれば元の場所に自動で戻るなど、事故や紛失を防ぐ機能を搭載したものも増えてきましたが、ドローンの落とし物について警察から当校へ問い合わせが入るケースも実際に多いんですよ」(麦倉氏)

法整備について語る麦倉氏

登録にあたっては氏名や住所、機体情報のほか、機体へのリモートID機能の搭載などが求められるが、申請自体はオンラインなら20分程度。費用負担も890~2,400円程度となっており、ユーザー側の負荷はさほど高くない。

この登録制度で基盤を固め、続いて12月から導入予定なのがドローンの免許制度。自動車の運転免許同様、国家資格としての免許制度が整備されつつある。詳細については今まさに国が検討している最中の段階で、全貌が見えてくるのは導入開始直前の9月頃の見込みだという。

免許制度が導入されることになった理由について麦倉氏に伺ってみると、今後ドローンの活用シーンがさらに広がっていくことが大きいようだ。

「先日の報道によると、大手企業が手を組み、都心部でドローン飛行し医薬品を配送するという物流の実証実験が行われました。これから『長距離飛行』『重量物の輸送』『人口密集地域上空の飛行』と活用の範囲が広がれば、リスクも上昇するのは確実。そこで、免許制度(※3)の整備が必要になるのです」(麦倉氏)

※3 有人地帯における補助者なし目視外飛行(レベル4)に関する免許制度

昨今のドローンへのニーズの広がりと法整備によって、免許取得者の価値が高くなるのは間違いないだろう。麦倉氏は「免許がないと仕事がないというシーンも今後増加するのでは?」と予想する。

▼後編へ


◇取材・文/ライター 矢島
埼玉在住、2人の姉妹の育児中。さいたま市内のニュースや人を中心に取材・執筆してい
ます。

後編では、具体的にドローンを武器にしたいと考えた際に重要となる「スクール選び」のポイントや、今後のドローン業界の未来予想図を紹介していく。

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