今、音声メディアが面白い! ポッドキャスター2名が予想する音声メディアのこれから《前編》

2021年初頭に突如として登場し、インターネット上の話題を席巻した音声SNS「Clubhouse(クラブハウス)」。現在は爆発的な盛り上がりこそ落ち着き始めたものの、Twitterも後を追うように音声チャット機能の「スペース」をリリースするなど、例年になく音声メディアが注目を集めている。

もちろん、Clubhouse以前から音声メディアはいくつも作られてきた。ダウンロードコンテンツの「Podcast(ポッドキャスト)」や音声配信サービスの「Voicy(ボイシー)」、さらにいえばインターネットラジオの「radiko(ラジコ)」も音声メディアに分類される。

今回はPodcastを使って10年近く音声コンテンツを発信してきた中山陽平氏とオリカワシュウイチ氏に、盛り上がりを見せ始めた音声メディアについて話を聞いた。

何年も反響がないままポッドキャストを続けてきた


− 本日はお集まりいただきありがとうございます。まずはお二人のプロフィールからお聞かせください。

中山: 株式会社ラウンドナップの中山陽平と申します。中小企業や零細企業の方々に対して、Webのコンサルティングとホームページ制作・運用を中心とした幅広いサポートをおこなっています。現在のポッドキャストを始めたのは2013年くらいからで、一時期休んでいましたが基本的には週1回ペースで投稿を続けてきました。

オリカワ: 「映画工房カルフのように」主宰のオリカワシュウイチです。映画制作や動画制作を学生時代からやっています。かつてはITマーケティングや広告業界に勤めていたのですが、映像の需要が年々増してきたため独立し、学生時代に趣味で名乗っていた屋号を切り替える間もなく現在に至っています。ポッドキャストは同じく2013年頃に始め、毎週欠かさず投稿を続けています。

− お二人が10年近く投稿を続けていらっしゃるポッドキャストというメディアですが、世間一般的な認知度はそこまで高くないのではないかと思います。おそらく「ポッドキャストってなんですか?」と聞かれることも多いのではないかと思いますが、お二人の言葉でポッドキャストのことを説明していただけますでしょうか?

中山: 昔だと「誰でもできる音声版ブログ」、今だと「Vlogの音声版」ですかね。正直、「ポッドキャストってなんですか?」と聞かれることさえ少ないので、ちょっと悩みますね。

オリカワ: 言ってもどうせ理解してもらえないので口に出さないですね(笑)。そういうふうに聞いてくる人はそれほど興味がない人。なので「文章を書きたい人はブログ、動画をやりたい人はYouTube、音でやりたい人はポッドキャストです」という具合に流しちゃうことが多いです。

− そんなポッドキャストを始めたきっかけは何だったのでしょうか?

中山: マーケティング的なことを考えて始めたところが大きいですね。2001年頃には大学に在学したままフリーランスでWebの仕事を始めていたのですが、当時すでにテキストコンテンツのボリュームがどんどん増えていたんです。なので、いずれは文字メディアから離れたところにも自分が情報発信をできる場を持っていないとまずいなと思っていました。

それで2012年に本格的な法人成りを考えた独立をしたときに、音声メディアのポッドキャストに目をつけました。僕は高校時代に演劇をやっていて、徹底的に訓練されたおかげで自分の声に対する嫌悪感を消せていたんですね。

− 録音された自分の声が嫌いだという人って多いですからね。

中山: それと大学で金管楽器をやっていたおかげで、呼吸法とか、どうやったらスムーズに声帯を震わせられるかも学んでいたんです。しゃべることも好きでしたし、音声コンテンツは作れるなと。当時のポッドキャストは本当にマニア向けのコンテンツでしたが、練習を兼ねて始めました。

中山陽平氏

− オリカワさんはいかがでしょうか?

オリカワ: 僕は家で物づくりをするのが好きなんですが、作業中って耳がヒマなんですよ。でも映画を見るわけにもいかないし、音楽も長時間になるとちょっと微妙。そこで何かないかと探したときにポッドキャストを見つけました。

− まずは聞き手としてポッドキャストに触れたんですね。

オリカワ: そうです。それで最初はお笑いのポッドキャストを聞きてみましたが、面白いけどこれも何時間も続けて聞いているとすべて聞き終わってしまう。そして次に聞き始めたのがビジネスインタビューの番組で、これも意外と面白い。でもその番組のインタビュアーがびっくりするほど下手くそで。相手が話しているのにインタビュアーの「あー!」というリアクションの声のほうが大きいとか(笑)。この人があまりにもひどかったので、これは自分でもやれるんじゃないかと思えてきまして。

− 下手なインタビュアーに勇気をもらったんですね(笑)。

オリカワ: それで特に戦略的なことは考えず、何かを配信したいと思って始めました。やっぱり当時はまだポッドキャストをやっている人は少なくて、へそ曲がりな僕にとってはそれもよかったですね。

オリカワシュウイチ氏

− ポッドキャストを始めた当初、反響などはあったのですか?

オリカワ: 全然ないですよ。当時はアナリティクス的なものもなかったと思いますし、ずっと真っ暗な押し入れの中で、一人ぼっちでしゃべっているような気持ちでした。

中山: 本当にないんですよ。誰もないところに向かってひたすらしゃべるんです。我々はそれができた、ある意味で酔狂な人たちなんです(笑)。反響はお客さんと付き合いが長くなった頃に、「実は聞いてました」と、あとからようやくわかるんです。最初から言ってくれればいいのに!

オリカワ: 僕は「聞きました」という感想が入ってくるまで5〜6年はかかりましたよ。人数もずっとやってきて合計4人くらい。しかもみんなここ数年に集中しているので、完全に独り相撲ですよ(笑)。

中山: ただ、仕事につながったと思えた瞬間は2年後くらいからありました。自治体から研修をしてほしいという話があり、理由を聞いてみたらポッドキャストとメルマガを購読しているからだと。そのときにやっと少しは報われたなと思えました。聞いている人が同業者ばかりだったら切ないなと思いながら続けていましたが、見込み客さんも聞いてくれているんだなと。

現在ではお問い合わせいただくお客さんの半分はポッドキャストを聞いてくれているという状況になっているので、もう辞められないですね。

距離が近く、感情を乗せられる。それが音声メディア


オリカワ: これまで4人くらいからしか感想を聞いていないと言いましたが、その4人についてはハッキリと顔まで覚えているんです。なぜかというとポッドキャストを聞いている人は「ファンです」と言ってくれるから。これにはちょっと驚きました。メルマガやホームページは「見てます」なのに、感想の言われ方が全然違うんですよ。

でも「ファンです」と言われて考えてみると、確かに僕自身も好きで聞いているポッドキャストの番組がいくつかあるけど、なんで聞いているのかと言われたら内容が面白いというよりもファンになっているからなんですよね。これは文字のメディアと違って発信者の感情や空気感が伝わってくるから。僕はメルマガとポッドキャストで同じ内容を流しているんですけど、文字と音声では受け手の感じ方が違うんだなあと。

中山: それはすごく思いますよね。たぶん同じ内容を10人がしゃべったら、10通りの届き方をする。なので、音声コンテンツは本質的にいうと内容が占めるのは半分くらい。残り半分は語り口とかパーソナリティなんですよ。耳障りのよさも大事だけど、「こういう人生を送ってきた人がどういう話をするのか」という部分が興味を持たれているんじゃないかな。

− 確かにラジオ番組なども、番組の内容よりもパーソナリティーが誰かということが重要視されている気がします。

オリカワ: 文字と音声で同じ内容を配信し続けてきてつくづく思うのは、文字だとある意味箇条書きのように淡々と伝わってしまうところを、音声だと「ここ、本っ当に大事なんですよ」とか感情を込めて伝えられる。内容に濃淡を付けられるから話していても感情がすごく乗るんです。過去には話していたら感情が乗りすぎてつい泣いてしまい、録音できなくなったこともありました。

− 涙が出るほど熱く話をされたら、話し手の人間性がすごく伝わりますよね。

中山: それだけ発信者と受け手の距離感が極めて近いのが音声メディアなんですよね。だからマーケティングの視点で考えると、最後の最後に使うべきコンテンツなんです。間違ってもフロントでぶつけるコンテンツではない。人間は他人のパーソナリティに触れるのってすごくストレスに感じるもの。いくら音声コンテンツが面白いと話題になったとしても、その距離感を間違えるとすぐ“疲れ”になっちゃうんです。いきなり音声コンテンツから始めて受け入れてもらえるのなんて有名人だけですから。

− Clubhouseの盛り上がりが一気に落ち着いた感があるのも、音声メディアが急に接近しすぎたのが原因なのかもしれませんね。

中山: Clubhouseは「音声版Twitter」と言われちゃったのが間違いだったように感じます。だって、Twitterなんて一番距離感が遠いメディアですから。音声メディアはだいたいイヤホンで聞いたりしますし、自分の近いところで鳴ってくるから、どうしても距離が近くなる。一方、テキスト系のコンテンツは距離が遠いですし、動画もテレビなどで見慣れているので意外と距離を置ける。距離感が全然違うので、ほかのメディアの代替にはなれないですよね。あくまでも別物として扱わないと。

まあ、Clubhouseに関しては当初のブームが去って、今はクローズドで見えない部分がいっぱいあると思いますが、これが本来の姿なのかなと思います。

オリカワ: メディアの代替といえば、YouTubeで音声メインのコンテンツを発信するのもいいと思うんですけど、目に入ってくる情報がものすごく邪魔な気がするんですよ。どんなにいいことを言ったとしても、「この人の顔が好きじゃない」とか思われたらそこで終わっちゃうところがある。音声メディアはそういう意味で、伝えたいことだけをまっすぐに、感情を込めて伝えられるところがいいところなんじゃないかと思いますね。

企業が音声コンテンツを使いこなすのはまだ難しい。でも成功例が出たら大きく変わる!


− お二人は個人でポッドキャストをビジネス活用されていらっしゃいますが、今後企業などの法人も音声メディアを活用し始めると思われますか?

中山: 使いこなせるようになったら強いですよね。今はとにかくテキストコンテンツがあふれていますが、そこから何か情報を得ようとすると整理するだけで大変。しかも、どこも自分たちに都合のいいように書くので、どのコンテンツを信じたらいいのかわからなくなってしまいます。

そこで大事になるのは「この会社、この人は信じられる」と思ってもらえるかどうかなんです。この人が言うなら、このサイトがそう書いているなら間違いないと思ってもらえるかどうか。結局人間は「いい製品だから買う」のではなく、「いい製品だと“思える”から、買う」わけです。

そういう信頼感を構築するときに音声コンテンツは向いています。信頼感を構築しにくいテキストコンテンツがあふれている今だからこそ、音声コンテンツを使いこなせるようになったら、強いです。

また、今はYouTubeの音声だけを聞きながら通勤通学している人や、画面を見ずに音声だけを流しながら仕事や作業をするという人も多い。聞き流しの需要がすごくあるんです。聞き流しで吸収できるくらいライトな情報で、なおかつ自分たちの存在を知ってもらえるような情報を発信できたらハマるかもしれませんね。

オリカワ: 企業が音声メディアをビジネス活用すれば、ほかのメディアではできないブランディングができますよね。まず発信している人自体を好きになり、ファンになる人が現れます。そうなると、発信している人が話しているものについても興味を持つので、ワンクッション挟んで商品が売れる。

中山: ただし、大前提として法人が人間性を出すのは難しいんですよ。広告塔を出すのか、マスコットキャラ的なものを出すのか、あるいは代表取締役などの偉い人が喋るのか、と選択肢はいろいろありますが、会社を代表してエモーショナルな部分まで発信できる人を用意できるかどうかが重要になってくると思います。

でもここをクリアするのはまだまだ難しい。どこかの会社がクリアして成功例がひとつできれば状況が変わってくるかもしれませんが。これまでは優秀なライターさんを会社でちゃんと抱えているかということが大事でしたけど、もう一歩先には音声で発信できる人がいるかどうかが大事になってくるかもしれません。

オリカワ: あと、ポッドキャストやClubhouseなどのメディアに頼らなくても音声コンテンツの使いどころってあると思うんですよ。あるとき僕が大ファンになったビジネス系ポッドキャストがあるんですが、質問があれば聞いてくれというのでメールで送ってみたら、そのメールに対して返信の文章はたったの2行程度。でもメールには添付ファイルがあり、開いてみるとなんと返事が音声だったんですよ。

いつもポッドキャストで聞いている声で「オリカワさんこんにちは。お問い合わせありがとうございます」と言っているんです。これでガッチリと掴まれました。みんながやればいいとは思わないけど、例えば日頃からチャットでサービスをしている会社さんなんかはそのまま移行できる気がします。

中山: 僕もお客さんから問い合わせが来たら、その場で動画に撮って返したりしています。その方がこちらとしてもメールで返すより楽だったりしますし、お客さんはやっぱり「ポッドキャストと同じ声で説明してくれてびっくりした」と喜んでくれるし、音声で返すことで芯がブレていない、一本筋の通った人だという感じも出せますから。

オリカワ: 音声は嘘をつけないところがありますからね。一本筋が通った人という感じが出せるというのは、非常になるほどと思いました。

株式会社ラウンドナップのHPで紹介されているお客様の声

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◇取材協力/Honda ◇文/野島慎一郎 ◇企画・構成/ウェプレス編集部

参加者プロフィール


中山陽平
株式会社ラウンドナップ代表取締役/Webコンサルタント
https://www.roundup-consulting.jp/

Webコンサルタント中山陽平の「中小企業を強くする」実践ウェブ戦略Podcast

オリカワシュウイチ

「映画工房カルフのように」主宰/映画制作体験プロデューサー/絵コンテコーチ
https://karufu.net/

映画が作れるようになるポッドキャスト

聞き手:野島慎一郎(ライター)

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