パソコンに触れないプログラミング教室
自分で考え、現状を変えられるチカラを育む
ロボットをプログラミングで動かし、仮説力や論理的思考を学ぶ栃木県宇都宮市のロボテック。第2回目の今回は引き続き、2人の姉妹が取り組む授業の様子をリポートすると同時に代表の籐貴之氏に話をうかがう。
17時20分、完成したロボットで月面探査
遊びの時間で応用してみる
ロボットを動かしながらプログラミングを進めていた姉妹。2つのパーツを回収し、元の位置に戻るところまでプログラミングが完成したようだ。では最初から通して動かしてみようと、本番に挑む。
スタート地点に月面探査ロボットを置き、タブレットの中でプログラムのスタートを示す緑色のフラッグをクリックする。動き出したロボットはパーツの場所でしっかりと方向を変え、ショベルでキャッチ。次のパーツへもスムーズに移動し、再度キャッチする動作を繰り返し、スタート地点に戻ってきた。姉妹とも狙い通りにロボットが動き、見事に成功した。
「成功体験が得やすいのがロボット教材のメリットです。ただ子どもはそれで喜びますが、親御さんはお子さんの成長やここで学んだことを目に見える形で望まれます。私たちの目指す仮説力や論理的思考など、考える力はいろいろな局面で生かされますが、なかなか目に見える形にはなりづらいもの。そこをどのように分かりやすく伝えるかはこれからの課題だと考えています」
そう籐氏は話す。だが、粘り強く試行錯誤を繰り返し、手順を考えながらプログラミングしている様子を見ていると、その取り組みが他でも生きることは大人であれば、理解はできるように思う。確かにすぐに何かのプログラミング言語が書けるようになるわけではないかもしれないが、考え方や考える姿勢、集中力などを育てていることを知ってもらうためには、この授業風景を見せるのが一番なのかもしれない。
17時30分、遊びの時間がスタート
やったことを応用してみる
授業の最後には「キャンディチャレンジ」と言われる時間が設けられている。自分でどこでも自由にお菓子を置き、それをロボットが回収できるようにプログラムを直す。取ったお菓子がもらえる遊びの時間だ。先ほどは直進、90度の回転など、比較的プログラミングしやすい場所にパーツがあったが、この姉妹は直進方向から斜め前の45度の位置にお菓子を置き、それを取ってこられるようにプログラミングを修正し始めた。
「応用といったら大げさかもしれませんが、出来上がったものを他のことでも生かせるようになって欲しいと思っています。ここではそれを遊びながらやるようにしています」
籐氏は範囲を限定せずにさまざまな形で考える力を養ってほしいと話す。ロボットを中心としているが、年齢が上の子どもにはドローンを作って飛ばすこともあるという。またミニ四駆も検討中とのことだ。
そして17時35分からはまとめの時間。今日やったことの感想などを先生や子ども同士が一緒になって伝え合う。今回の姉妹はロボットを曲げるタイミングと、パーツを確実にショベルで拾うための方法で苦労したなどと話した。
「考える力と同じくらいに大切にしているのがプレゼンテーション能力です。自分がこのロボットをどのように動かしたいと考え、どんなプログラミングをしたか。そしてその結果どうなったのかを一緒にいる友達や先生に伝えるようにしています。ロボットを使うことでその説明はしやすくなりますので、なるべく自分の言葉を使って話すように教えているんです」
自分のやってきたことを自分以外の人に正しく伝える能力も伸ばして欲しいと籐氏は話す。そしてお片づけをして18時ちょうどに終了。迎えに来ていたお母さんと共に、姉妹は揃って楽しげに帰っていった。
必修化によりプログラミング教室は増加中
しかしプログラミングだけに留まらない教育を目指したい
2020年度からプログラミングは小学校で必修化される。その影響もあってかプログラミング教室へ入りたいという希望は年々増えており、実際、教室の数も増加傾向にあると籐氏は現在の状況を教えてくれた。タブレットを用い、プログラミングのみを行うところもあれば、今回、訪問したロボテックのようにロボットを組み合わせたものなど指導の方法や内容は教室によって様々だという。
「2020年からの必修化はITエンジニアを増やすこと、そしてクリエイティブな人材をもっと育てたいという文部科学省の狙いによって始められます。しかし小学校によって教えられる先生がいなかったり、教材が揃えられなかったりなど、足並みは揃っておらず、未成熟な状態でスタートすることになりそうです。でも本当に大切なのはプログラミングの技術ではなく考える力だと私は思います。今の子どもたちが大人になるころには会社員という形態は消滅して、フリーランスで働く人ばかりになるでしょう。私も独立して感じましたが、そうなると自分で考え、現状を変えて価値を作りだせる人間が成功していきます。私が目指すのはここで育った子どもたちがプログラミングに限らず、政治家でも自営業でもどんな世界でも活躍できる大人になること。そのためにプログラミングに留まらず、いろいろなことに取り組んでいきたいです」
現在、ロボテックは栃木県内に3カ所、教室を持ち、通う生徒は幼稚園の年長から中学3年生まで約80名。月2回、ロボットを動かしながら学んでいる。“先生が教え過ぎず、生徒が考える”という方針を取っていることもあり、子どもたちが盛り上がり過ぎて、教室内が大騒ぎになることもあるという。パソコンに向かって黙々とコーディングするのではなく、自分で考えることがベースにありながらも、楽しく試行錯誤できる環境は確かに魅力的だ。こうした経験を小学生からしていた子どもがどんな大人に育つのか。確かに楽しみだなと思わせる授業内容だった。
なお文部科学省が進める小学校プログラミング教室の概要はこちらから参照できる。https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyouhou/detail/1416328.htm
◇ロボット教室・プログラミング教室のロボテック
宇都宮ベース/栃木県宇都宮市塙田5-2-44
壬生ベース/栃木県下都賀郡壬生町976−7
栃木市ベース/栃木県栃木市倭町6-20
https://robotec.jp/
◇取材・文/赤浦 和
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次回特集テーマは「スポーツアナリストの仕事(仮称)」です。お楽しみに。