コロナ禍のデュッセルドルフ市とブンデスリーガ(後編)
ドイツのプロサッカーリーグのブンデスリーガは、1試合平均の観客動員数が世界最多の約4万3000人(2018-19シーズンの1部リーグ)と圧倒的な人気を誇る。その理由に他国とは違うファン文化の濃さがある。ドイツのサッカーチームはほとんどの場合、もともと市民たちによる同好会のようなスポーツクラブが発祥のため、地域に根差していて地元愛の強いサポーターたちに支援されている。
さらにドイツには特有の「50+1ルール」というものがある。クラブが過半数以上の議決権を持つことを義務づけるもので、一部の例外はあるものの、企業やオーナー個人が営利目的でクラブを所有することを防ぐ規制だ。つまり、クラブは会員である“サポーターのもの”であり、公共性がどこよりも強い。当然、サポーターに影響力があり、他の欧州と比べて観戦チケットが安く、立ち見席やスタジアムでの飲酒といったファンの文化も守られているため、熱狂的な人気につながっている。
試合を止めるな
そんな試合を彩るサポーターがスタジアムにいなくてもリーグが続いているのは、もちろん経済的な理由が大きい。ブンデスリーガでは2018-19シーズンに1部および2部リーグの合計で約5万6000人の雇用を生み、36クラブの収益は合計で48億ユーロ(約6050億円)を超えていた。
ちなみに、Jリーグが発表した2019シーズンの55クラブの収益合計は1325億円だった。
しかし、現在のコロナ禍でクラブは無観客で試合を開催せざるを得ないため、チケット代など試合運営による収入が見込めない。その上で、さらに試合が中止となれば、最重要の収入源であるテレビ放映権料も失うことになり、多くのクラブが経営破綻の危機に陥る。実際、第1波でリーグが中断した時は、1部と2部の計13クラブが破産危機に直面していると報じられていた。ウイルスが蔓延する世界でも、リーグやクラブは存続のために走り続けるしかないのだ。
“バーチャル取材”
サッカー取材の環境も変わった。試合日はスタジアムに入れる記者の人数も制限されているため、外国人である日本人記者にとって取材は以前よりも困難になっている。クラブによって対応は違うが、試合前後の記者会見は「バーチャル会見」としてオンラインで行われ、選手への取材は電話やメール、ビデオ会議などを使ったものが主流となった。これまでは選手や監督と実際に対面して行う取材が普通だったが、ツールを駆使した“バーチャル”な取材へのハードルが格段に下がっている。
「WhatsApp」で質問を受け付け
まだ感染拡大が穏やかだった9月、デュッセルドルフから電車で約1時間のボーフムで今季唯一の試合取材することができた。2月以来の現場で少し緊張しながら訪れたスタジアムは環境が一変していた。感染拡大防止のため、試合前後のスタジアム滞在が最小限に制限され、久々の雰囲気を楽しむ時間や余裕はあまりなかった。取材エリアも閉鎖されて選手との接触はない。選手や監督への質問はクラブの広報を通じて、日本で言うL I N Eのようなメッセージアプリ「WhatsApp」でまとめて受け付けられ、後にコメントが音声データで送られてくるというイレギュラーな形となっていた。
子供たちにオンサインサッカースクール
各クラブはメディア対応以外でもオンラインを駆使している。フォルトゥナ・デュッセルドルフでは12月から子供たちのために自宅からオンラインで参加できるサッカースクールを開始。6歳から12歳を対象にウェブカメラを通じて練習を行っているという。スポーツの機会が少なくなったコロナ禍において、地元の子供たちに体を動かす場を提供して心身のケアに一役買っている。
クラブが演劇団体を支援
また、同クラブはスポーツ以外の分野も支援している。劇場やイベント会場の閉鎖を受けて、クラブ役員も参加した寸劇のビデオをソーシャルメディアに投稿するなどして地元の演劇団体を支援しているという。クラブのマーケティング担当は「我々はクラブを通じて街の様々なところに注目を集め、新型コロナウイルスで苦しむデュッセルドルフの人たちを助けるために全力を尽くしています」とコメント(クラブ公式サイトより)。地元に愛されているサッカークラブだからこそ地域とのつながりを何より大事にしている。新型コロナウイルスの感染拡大で街の生活や環境は一変したが、サッカークラブの役割は変わっていないようだ。