小学生向けの映像づくり講座あれこれ

小学生向けの映像講師の依頼が定期的に来ます。

「子供たちだけで映画を作りたい」
「子供たちだけでPR動画を作りたい」
といった内容です。

依頼主は、企業・行政・カルチャースクールから個人まで様々。
開催時期は夏は多く、今年は4種類の講座を担当しました。

それなりに数をこなしてきたように思うので、一度総括してみたいと思います。

どんな内容を担当しているのか

毎度毎度、本当に依頼内容はバラバラです。

ただ、依頼主には必ず何かしらの目的があります。
僕はそれに合わせてプログラム内容を構築して提案します。

例えば今年やったのは、次のようなものでした。

「子供たちを複数チームに分け、それぞれ違う街のPR動画を作る」
「子供たちに特撮を体験してもらう」
「小学生ユーチューバーを体験してもらう」
「子供たちだけでホラー映画を作らせたい」

過去には、次のようなものがありました。

「町おこしの一環として、子供たちにその街で映画を作ってもらう」
これまで同じ街から2度、3度と呼んでいただいている例もあります。

また、ある小学校の先生から、
「子供たちが映画を作りたいと言って騒いでいる。助けてほしい」
という個人的な依頼を受けたこともあります。

子供向け講座が始まったきっかけ

一番最初に問い合わせがあったのは、かれこれ6年くらい前になります。

ある街の青年会議所さんから一通の相談メールが届きました。
「自分たちの街で、子供たちに映画を作ってほしい」と。

正直、困りました。
僕は大人向けに映画制作ワークショップを長年開催してきましたが、子供向けは経験がない。

僕は年代別に次のように考えています。
・中高生から20代:ネットで調べて自分たちで作れる
・30代・40代:忙しくて週末しか時間が作れない
・中高年以上:なかなか機会がない

そのため、忙しくて、かつ機会がない大人を相手に講座を作りました。
ところが、小学生は考えてなかった。

相談メールに対して、自分は子供専門ではないことを伝え、「こうやったらできると思うのでやってみてください」という内容を詳しくまとめて返信しました。
柔らかくお断りしたつもりでしたが、「是非それをやってほしい」という方向に進んでしまった。

そこで一度開催し、その事例をネットで公開すると、次々と同様の依頼が続くことになってしまったわけです。

依頼主が気にすること(1):予算のこと

当たり前ですが、「いくらで受けてもらえるのか」は気になるでしょう。

僕は、無料でボランティアはしません。
しませんが、「いくらないと受けない」というものはなく、予算と希望に応じてプログラムを提案します。

僕が一人で行くこともありますし、講師チームを編成したりもします。
また、ビデオカメラをレンタルする・しないなど、機材も変えます。

しかし、機材がたくさんあればいいというものでもない。
開催時間も限られているため、機材が多いと慣れる前に終了になってしまいます。

依頼主が気にすること(2):どんなものが作れるか

よく、過去の作品を見せてほしい、と言われます。
「すごいものが作れるなら依頼したい」という期待があるのはわかります。

しかし、僕は見せません。

子供たちが写っているので、そもそも一般公開できないという事情もあります。
が、それよりも、生まれて初めて短時間で作る映像に「誰が見てもすごいもの」を求めるのは無理がある。

例えば結婚式で流れるビデオ。
本人や家族が涙しても、見ず知らずの他人にとっては最後まで見るのすら苦痛でしょう。

<名作>を求めるなら、僕はお断りします。
が、完成までこぎつける体験と、作る楽しさ、そして最低限の質は提供できます。

最低限の質とは、とても見てられないレベルは脱する、ということ。

講師の苦悩(1):ロジックが使えない

大人は、まず勉強してから、という人が多い。
動き出すまでに時間がかかる、という言い方もできますが、しかしロジックで会話ができます。

一方で子供たちは、いきなりカメラを掴んで走り出す。

「子供たちの自由にさせたい」
「自主性に任せたい」
といった言葉が聞こえますが、こと映像に関していうと、とても見てられないものが映るだけです。

構図、カット割、引きと寄りの効能・・。
いろいろ伝えたいことはあるものの、お勉強にしてはいけない。
彼らはじっと聞いてはくれない。

この辺りが講師の腕の見せ所であり、事前の準備が必要な部分です。

講師の苦悩(2):映像的なバックグラウンドが違う

いつも困るのが、子供たちと僕の「映像的な共通部分」が少ないことです。

大人とは、過去に見てきた映画やドラマを参考に話ができます。
一方、子供たちはYouTubeしか見ていない。

近年特に感じるのが、「ゲーム実況を見ている子が多い」こと。
ここには、カット割などというものはありません。

また、調べてすぐ<答え>を見つけようとする傾向も感じます。

PR動画を作ろうという講座では、おもむろにWikipediaを開いて文章を引用し始める子も。
書き言葉と、話し言葉の違いを教えるのはとても難しい。

これは決して、子供たちに能力がないのではなく、映像で伝える経験が少ないのが原因。

「これは何がすごいの?」
「他のと何が違うの?」
僕から、こういった質問を投げかけると答えてくれる。

それをメモしよう!と伝えています。

講師の苦悩(3):例え話が使えない

子供に教える時、言葉遣いに困ります。
大人向けの講座は、ボキャブラリーによってずいぶんと助けられていることに気づきます。

以前、カメラを持ってすり足で移動する実演をしていて、うっかり「腰が痛くなるので注意」などと口にしてしまい、シーンとしたことがあります。

いろんな例え話もまた、相手が大人だからできること。
そのためできるかぎり、記入式シートや配布資料を作り込んでいます。

しかしあまり作り込んでも、『ドキュメンタリー映画の演出』という矛盾と同じ感じがするので、悩みは尽きません。

「自分は、彼らにとって親戚のおじさんなのだ」という距離感を意識して話すようにしています。

講師の苦悩(4):すぐ騒ぐのを止められない

子供たちは気を利かせない。
運営側にとってはこれが一番の問題ではないでしょうか。

長時間の集中は厳しい。
すぐにだらけ始めます。

互いに知った子供たちだと、騒がしさは目に余るレベルに。
そのため、講師とは別に、子供たちをまとめる役が必須です。

学校の担任の先生がいると助かります。
さらに親御さんが一緒なら安心。

一方で、集められて互いに初めて会う子供たち、というのは、とにかく無反応になります。
大人だったら、気を利かせて誰かが口火を切ったりしてくれますが、子供たちは遠慮して下を向いたままだったりする。

映像制作に関係なく、ファシリテーションにかかってきます。

技術的な話(1):撮影はスマホではなくタブレット

小学生たちは、スマホを持ってる子も持ってない子もいます。
そのため、子供たちが一緒に作る場合は、タブレットがカメラ代わりになります。

彼らは学校でも使っているので、使い方は問題ありません。

担当講座の中には「親子で作ろう」というタイプもあります。
その場合は、親御さんのスマートフォンがカメラになります。

技術的な話(2):一番のネックは録音

機材面は、いつもここを重点的に考えます。
ことは、「マイクを用意すればいい」なんて単純な問題ではありません。

ピンマイクを用意すると、「一度に話すのは一人か二人」という指定をすることになる。
子供たちは、8人とかが一緒に話す・変わりばんこに話す、などいろんなことを主張します。
(そしてこれは、撮影当日になるまでわからない)

彼らは映像的な話し方も訓練されてないし、こちらも細かく指導する時間も限られている。
今は、マスクもあってこれもすごーーーーく悩ましい。
(マスクを外すのを嫌がる子も意外と多い)

時間的、編集の手間的な問題から、映像と声を別々に収録してあとでくっつける、という選択肢は現実的ではありません。

この部分は、講座ごとにチェックして提案を変えています。

技術的な話(3):編集もタブレットで

タブレットで撮影し、そのままタブレットで編集する。
これがいちばんスムーズな流れです。

そして、子供たちはタブレットでの動画編集も、軽くアドバイスすればどんどんできてしまう。
なんなら、子供たちの一部は動画編集の経験者だったりする。

iOSならiMovieを、AndroidOSなら別の無料アプリをアドバイスします。

たまに、「撮影だけ子供たちで、編集は講師に任せたい」ということもあります。
そうなると、撮影方法もガラリと変わります。

まとめ

講座を続けていると、子供は子供で共通点が見えてきました。
子供ならではの、共通した発想や行動がある。

「子供ならではの自由な発想で・・・」と期待されますが、残念ながらそうそう目新しいものは出てきません。
むしろ、先に述べたWikipedia参照のように、既存のもの・できあいのものに引っ張られることも多い。

その一方で、「どうやって作るか」という部分は心配はいらない。
彼らはすぐに動き出すし、とにかくフットワークは軽い。

その点は大人とは真逆です。

口を出しすぎると「じゃあ答えを教えてください」的な態度になることもあり、そこも悩ましいところです。

同じ内容でも、相手が違えば伝え方も変わる。

これからも研究を続けたいと思います。

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