創業70年の“老舗質屋” インターネットのある現在《前編》

私たちの日常生活においてインターネットはすっかり欠かせないものとなった。

それは昔ながらの業種でも同様。日本での起源は鎌倉時代までさかのぼるとされる“質屋”でも現在はインターネットのある生活を取り入れ、インターネットを活用しながら事業を続けている。

今回の特集では、埼玉県さいたま市・北浦和駅前で1950年から質屋業を営む老舗「質ミウラ」の店主・三浦広之氏に話を伺い、質屋業界では現在どのようにインターネットを取り入れているのかを伺った。

多岐にわたるウェブサービスを積極的に導入して活用していく姿勢は、きっと質屋以外の業種においても参考になることが多いはずだ。

インターネットの活用が当たり前になった老舗質屋の今

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質屋(しちや)とは、財産的価値のある物品を質(担保)に取り、流質期限までに弁済を受けないときは当該質物をもってその弁済に充てる条件で金銭の貸し付け業務を行う事業者を指す。

質屋は通常、宝石類、楽器、家庭用オーディオ機器、コンピュータ、ゲーム機器、テレビ、カメラ、電動工具、礼服、眼鏡、スマートフォン、タブレット端末その他の比較的貴重な物品を質草として受け入れる。

流質期限までに借入額+合意した利息額を弁済することで、質草が手元に戻ってくる仕組みである。流質期限までに弁済が行われなかった場合、担保の質草は質屋によって他の顧客に売却されることとなり、「質流れ」と呼ばれる。

引用元:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%B3%AA%E5%B1%8B

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要は、物品を質屋に預け、その価値に相当する金額を貸してもらえるというサービスをおこなっているのが質屋だ。

質流れになった物品は店頭でそのまま販売されることも多く、店舗の外観がリサイクルショップのように見える場合も多い。そのため、現在では質屋のことをリサイクルショップの同類だと思っている人も多いようだが、質屋の本業は金銭の貸し付け業となる。

また、商品の所有権が手放されることは“質流れ”といい、店頭でそのまま販売されることも多い。その場合は外観がリサイクルショップのようにも見えるため、質屋が不用品買取の店だと思えてしまうのも必然だろう。

実際に、かつては利用客のほとんどが融資を受けるために質屋を利用していたそうだ。

▲創業当時の「質ミウラ」

「創業当時は今でいうリサイクルショップのような店がなかったため、そもそも古物を売るという感覚は薄く、一時的なお金が必要な人は品物を質屋に預けてお金を借りるという時代でした。当時はカードローンのようなものもなく、銀行でも簡単にはお金を借りられません。例えば、今日3万円欲しいとなったときに『あれを質に入れたら10万にはなるな』と思い出すような、質屋が生活に密着していたところがあったと思います」(三浦氏)

しかし、時代の流れとともに気軽にお金を借りられる手段が増え、リサイクルショップという業態も一般化。質屋の立ち位置も自然と変わっていったのだろう。質屋の数も減少し始め、三浦氏によると現在では全国で1500店舗程度。毎年50から70店舗はなくなり、質屋が1店舗もないという県さえも存在するそうだ。

競合店舗が少なくなるということは、分散していたニーズが残る店舗に集中することにもなるはず。これは「質ミウラ」にとってポジティブな変化なのかと思いきや、実際は逆に強い危機感を覚えているのだという。

「店の数が減るということは、質屋という業態自体の知名度が下がることでもあるんです。昔は確かに質屋同士で競合し、ライバルのような関係の店もありましたが、今はもうそんなことを言っている場合じゃない。このままだとこの質屋という業界がなくなってしまいかねないんです」(三浦氏)

そこで必要不可欠になってくるのがIT化だ。「質ミウラ」ではいち早くインターネットを活用し始め、最近ではホームページをリニューアル。さまざまなウェブサービスを駆使し、自店舗の情報だけでなく質屋全体のことも発信して、業界全体を盛り上げていこうとしているのだという。

▲商品の査定をおこなう三浦広之氏

“質流れ”した商品を利益化するのにネットショッピングは必要不可欠

「質ミウラ」が最初に導入したウェブサービスは「質屋通り商店街」というブランド品ショッピングサイト。質流れした商品を掲載して販売するという、現在では当たり前になっているシステムだが、約15年前に導入した当時は質屋にとって実に革新的なサービスだった。

「それまでは質流れした商品は店頭で販売するほか、公民館を借りて販売イベントを開催したり、雑誌の広告枠に掲載して宣伝したりしていました。雑誌での販売は反響があっても、入稿してから発売されるまでにタイムラグがあるため、その間に商品が売れてしまったり、価格が変動してしまうことがあるんです。今だったらもっと高値で売れるのに、雑誌に掲載した価格は今の相場の半値……なんていうこともありました。それがインターネットだと相場変動に合わせて価格をすぐ変えられるし、しかも載せたらすぐに売れるんです。これはありがたいサービスでした」(三浦氏)

質流れした商品は販売しないと質屋の利益にはならない。質屋が利益を生む手段として、インターネットショッピングは見事にマッチしたのだった。その後「質ミウラ」では出店するショッピングサイトを増やし始め、現在では商品写真の撮影や登録業務、購入後のやり取りなどは代行業者のサポートを受けつつ、「BASE」「楽天市場」「ヤフオク!」「Yahoo!ショッピング」「メルカリShops」を同時に運用するまでになっている。

また、販売以外の面でも質屋にとってインターネットはどんどん必要不可欠なものとなっていく。かつては品物に値段をつける際、分厚い“相場表”を参考にしつつも、基本的には身につけた知識と経験を頼りに値段をつけるしかなかった。ところがインターネットが普及すると、相場の調査やブランド物の新製品情報の入手にもインターネットが活用可能に。さらに埼玉県質屋組合連合会(埼玉県連)の組合員同士の情報共有もスピーディーになっていったそうだ。

「埼玉県の質屋は比較的横のつながりが多く、例えば怪しいお客さんの情報を共有したりしています。盗品が持ち込まれたりする場合もあるので『こういうお客さんが盗品らしきものを持ち込んで来たので注意してください』と流したりするんですね。それを昔は月に1回程度開催される勉強会や、FAXを使って共有していましたが、ネットの普及で速やかに情報共有できるようになりました。現在ではLINE WORKS(ラインワークス・ビジネス版LINE)を導入してさらにインフラを強化しています」(三浦氏)

新型コロナウイルスの影響を受け、埼玉県連での理事会もオンラインで開催されるなど、近年はIT化がさらに加速。近年は質屋の店舗数が減少し始めているというが、三浦氏によるとこのIT化の波に飲まれ、対応できなかった店舗から閉店に追い込まれている印象が強いそうだ。

▼後編へ


◇取材・文/野島慎一郎

後編では「質ミウラ」がこのほかにも活用しているネットサービスを紹介。さらに質屋業界の未来について展望を伺った。

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