創業70年の“老舗質屋” インターネットのある現在《後編》

財産的価値のある品物を担保にお金を貸す「質屋」。古くからある業態のひとつだが、現在は目覚ましい勢いでIT化の波が波及している。

今回の特集では埼玉県さいたま市・北浦和駅前で質屋業を営む「質ミウラ」の店主・三浦広之氏に話を伺い、質屋業界がITを取り入れていった経緯を調査。後編では「質ミウラ」で活用するウェブサービスについてさらに掘り下げつつ、質屋業界の未来についての展望も聞かせていただいた。

顧客獲得に欠かせない「LINE査定」の活用

約15年前にブランド品ショッピングサイト「質屋通り商店街」を利用し始めたことをきっかけに、現在では「BASE」「楽天市場」「ヤフオク!」「Yahoo!ショッピング」「メルカリShops」という5つのショッピングサイトを活用しているという「質ミウラ」。このほかにも各種SNSをはじめ、さまざまなウェブサービスを活用しているが、特に力を入れているのはLINEを活用した商品の査定サービスだ。

査定サービスはLINEにて「質ミウラ」の公式アカウントを友だち登録したあと、トーク画面にて査定を依頼したい写真と商品に関する情報(ブランド名、品番、商品状態など)について送信すると、トーク画面でおおよその査定結果を受け取ることができるというもの。

「ホームページやSNSは当店の利用者を増やすという目的が大きいので、気軽にLINEで査定を申し込んでもらえるのはとても嬉しいです。査定金額を見て実際に『買い取りをお願いします』とご来店いただいたとき、『買い取りではなく質預かりもできますよ』と伝えると、そこではじめて『預かりってなんですか?』と聞き返されることが多いんですね。質屋のサービスを知らなかった人が、質屋のことを知るきっかけになっているんです」(三浦氏)

一度売ってしまって関係性が終わる買い取りよりも、関係性が続く質預かりの顧客が増えたほうが店にとってプラスになることは間違いない。LINEが新規顧客を獲得するきっかけになっているのだ。

また、LINEで公式アカウントを友だち登録すれば査定依頼以外のメッセージも送信可能に。ときにはお客さんから「店頭にあったあの商品、明日買いに行くから確保しといて」というようなメッセージや、振込確認の連絡など、実にさまざまな用途で活用されている。お客さんとお店の距離が近づくという効果もあったようだ。

コロナ禍で加速するIT化の流れ

新型コロナウイルスの影響を受け、埼玉県連での理事会がオンライン化された話は前編で少し触れたが、そのほかにも質屋を取り巻く多くの環境でコロナ禍の影響によるIT化が進んでいる。

創業当初から「質ミウラ」では質流れした商品のほかにも、ラインナップを充実させるためにさまざまな新品・中古品を仕入れて店頭に並べていた。市場に出向いて一日に何千本も腕時計を見て鑑定したうえでオークションに参加し、仕入れたい商品を競り落とすということをずっと続けていたが、コロナ禍で声を出しての競りは危険と判断され、オークション自体がオンライン化。今回取材で訪問した日もまさにオークションの開催日で、取材の合間に金額の推移をチェックしながら入札をするか決断していくという臨場感あるシーンに立ち会うことができた。

「オークションがオンライン化したのはコロナのポジティブな影響のひとつだと思います。ただ、かつては現場で実物を見ることができましたが、現在はアップされる写真だけで商品価値の有無を判断しなければならないというミッションも増えました。主に気になるのは商品のコンデイションで、時計であればちゃんと動くか、ガラスに擦り跡があるか、などの要素なのですが、例えば写真が明るく写りすぎていて傷が飛んでいたりすることもある。当店では仕上げを自社でできるので多少なら問題はないのですが、できない店舗は大変だと思います」(三浦氏)

また、世間が少しずつ「Withコロナ」の流れに変化し、最近になって質流れ品の販売イベントも再開し始められたそうだが、そこに訪れる客も変化が見られるという。現在は海外から日本に来ることがなかなか難しいため、「ライバー」と呼ばれるライブ配信者が代行で買い付けをしに現れるそうだ。

ライバーたちはスマートフォンなどを片手にライブ配信を行いながら商品ウィンドウに張り付き、視聴者からのリクエストを受けて商品の映像をアップで配信。視聴者からの購入リクエストがあった場合はライバーがその場で購入し、ネットを介して転売してマージンを稼ぐのだという。

「ライバーは当店にもいらっしゃることがあります。商品を買う側もどんどん変わっているということを実感しますね。また別のケースですが、ほかの中古ショップの店内からLINEで商品の査定を依頼されることもありました。店頭に並んでいる商品の写真を撮影して査定依頼し、高い金額がつきそうだったら買い取って当店に持ち込むという算段です。これはコロナの影響とは違うかもしれませんが、世の中がどんどん変わっていっていることを実感しますね」(三浦氏)

IT化が進んでも本質は“街のなんでも屋”

コロナ禍というきっかけもあり、一気にIT化が進んだ質屋業界。その流れは今後さらに加速していくのだろうか。最後に質屋業界の未来について展望を尋ねてみた。

「現在、質屋業界はM&A(Mergers and Acquisitions/合併買収)がすごく多く出ています。年商が大きい店が次々に買われてしまっているのですが、業界が高齢化していることもあって喜んで売ってしまっているケースも少なくない。新規参入がないわけではないですが、やはり業界全体的に縮小しそうなことに危機感を抱いています。

その中で生き残るためにできることは、流行り廃りをうまく見極めて、変化する時代の中でも必要とされるような商品を取り扱うこと。例えばNFT(Non-Fungible Token/非代替性トークン=微増不可能なデジタルデータ)のようなデジタル資産を将来的には扱うかもしれないですよね。敏感にアンテナを張り、流れをキャッチし続けていかないといけないと考えています」(三浦氏)

その一方で、これからも“街のなんでも屋さん”でありつづけたいとも。

「当店は浦和という地で長く営業していることもあるのでしょうが、質屋って“街のなんでも屋”という側面があるんです。例えば、『葬儀屋さんはどこに頼めばいい?』とか『コーヒーが美味しいお店は?』なんてことを相談されることもあるのですが、これは実はすごく嬉しいこと。地域密着の象徴になっているということですから。

質の利用者からも『あのときミウラさんが貸してくれて本当に助かった』と感謝してもらえることが多いです。正直、質屋の利息は安くはないのですが、それでもお礼を言われることのほうが遥かに多いんですね。地域の人達の助けになり、いざというときに役立つという存在でありつづけたいですね」(三浦氏)

どんなにIT化は進んでも、質屋の本質は“街のなんでも屋”。きっと、アナログな温かさを残し続けるためのツールとして、ITが活用されているのだろう。

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◇取材・文/野島慎一郎

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