インターネット口コミ時代の観光業~山梨県富士河口湖町ルポ《前編》~

その意味を正確に説明できなくても「バズる」はかなり一般に浸透している。バズマーケティングから由来する言葉。要するに口コミだ。
発信側する側に戦略があろうとなかろうと、SNSなどでの口コミの広がりの影響はマスメディアを凌ぐ。
外国人旅行者の増加が著しい山梨県富士河口湖町で観光業に関わる人たちを取材して知ったのは、口コミを裏支えする地道な活動だった。

 キャンプ場から「忠霊塔」へ向かった外国人旅行者

富士山マラソン(河口湖大橋)

11月の「富士山マラソン」は、富士五湖の河口湖と西湖を周回するフルマラソン。真白な富士山と紅葉の絶景を走る湖畔コースが人気で外国人ランナーの割合が年々増えている。ここ数年はバックパックを背負いキャンプ場に前泊して参加する人も見かけるようになった。

昨年11月23日のマラソン前夜。昭和31年開設の西湖紅葉台キャンプ場には時季外れにもかかわらず複数組の宿泊客が滞在していた。

キャンプ場オーナーの三浦美信さん(72)は、フロント棟でコンビニ弁当を食べていたヨーロッパ人女子学生3人組に「明日、忠霊塔(ちゅうれいとう)に行く方法を教えてほしい」と声を掛けられた。

日本語のわからない彼女たちに対して、三浦さんは片言の英語で答えた。マラソンの交通規制でバスも走らないし、タクシーも呼べないことも説明。そもそも観光地でもない忠霊塔へのアクセスは不便で、翌朝早く三浦さんが自家用車で富士河口湖駅まで送った。

忠霊塔 photo/t.furuya

2013年の富士山の世界文化遺産登録は、訪日客増加に拍車をかけた。

そして外国人旅行者の旅は、単に代表的な観光地を巡るだけではなく、行動はよりアクティブに、そして顕著になったのはSNSでシェアされたスポットに一気に向かう傾向だ。

いつの間にか富士山絶景ポイントとして世界に知れ渡った代表格が忠霊塔。富士山、五重塔、桜といった日本を代表するアイコンがセットで写せるポイントだ。

富士河口湖町観光連盟の施策

「詳しくは知りませんが、数年前にタイのバンコクの交通広告に写真が使われて、それからSNSなどで広まったそうです」

富士河口湖町観光連盟の堀内さん

忠霊塔人気の経緯を教えてくれたのは(一社)富士河口湖町観光連盟の堀内淳平さん(28)。食品商社を退職後地元に戻って3年目。町の観光予算と会費収入と広告収入を主な財源にして観光客誘致などを進める連盟の実行部隊のひとりだ。

堀内さんに外国人観光客向けの事業などを聞いた。

電車やバスで訪れる観光客の拠点の河口湖駅の構内に複数のポスターで告知されていたのが「富士河口湖町Free Wi-Fi」。

富士河口湖町Free Wi-Fi

観光施設など30ヵ所で使える。スマートフォンのメール登録やパスワードも不要で1日に60分を2回まで利用できる。やってみると驚くほど簡単にアクセスできた。

「フリーWi-Fiはどこの観光地でもやっていると思いますが、バナー広告掲載で運営費を賄うというスキームでやっているのは、他にはあまりないと聞いています。私自身も広告営業に歩きました。広告料は30ヵ所全地点で表示されると年間72万円です」

富士河口湖町Free Wi-Fiのバナー広告

また、富士山観光を軸に日本中の観光地と観光地を繋ごうと、「富士の国日本」というWebサイトを立ち上げて、各地の観光関連サイトとの相互リンクを進めている。

「山下理事長の号令でスタートしました。これはもう足で稼ぐしかないと、2泊3日で東京でも埼玉でも出かけて行ってリンクをお願いに回っています」

外国人向け動画の制作は始まったばかりだ。

「レストランや宿泊施設で働く外国人スタッフに出演していただき『ぜひ来て』というメッセージ動画を母国にシェアしてもらおうという企画です。今のところ中国、台湾、ネパール、フランスなどの方が協力してくれることになっています」

外国人向け動画

大型の広告プロモーションの計画もある。旅行代理店とタイアップして、関西から九州までのJR全駅での観光パンフの設置や山手線の中吊り広告など。現在は時期未定だが準備は整っている。

「天空の鳥居」もSNSで

最後に、河口湖エリアの旬のスポットについて堀内さん聞くと、ポスト忠霊塔とも言えそうな「映えるポイント」を教えてくれた。

「2、3か月前から外国の方にSNSですごくシェアされているのが『天空の鳥居』。河口浅間(かわぐちあさま)神社の遥拝(ようはい)所として、境内裏の山に整備中の場所です。正面に富士山、眼下に河口湖が広がる高台。鳥居も最近建ったばかりです」

「天空の鳥居」 photo/t.furuya

富士河口湖町観光連盟のトップは、日本バスプロ協会長など釣り関連団体の要職やホテルグループの代表を兼ねる山下茂代表理事(77)。

「私は台湾や中国には45年前から観光営業へ出かけています。もう100回以上です。最近は何でもデータに基づいてということですが、その分想像力が足りないのではないでしょうか?人がやらないことをやらないとダメです」

富士河口湖町観光連盟の山下代表理事

「はじめから行政の予算をあてにしていたら、観光事業はできません、自ら企画して実行して、賛同してくれたら予算は出てくるんです」

彼の人脈とバイタリティが連盟の推進力となっていることは周囲が認めている。

後編はこちら


◇取材・文/福田知孝(wepRESS編集部)

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